「葉隠武士道」―今を生きるあなたへー
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今日が人生最後の日だとしたら
『葉隠武士道』という言葉をご存じでしょうか。もし今日が、人生最後の日だとしたら。
そんなことを、考えたことはあるでしょうか。江戸時代に書かれた一冊の本に、この問いへのヒントがぎっしり詰まっています。その名も『葉隠』。「武士道とは死ぬことと見つけたり」という言葉で知られるこの葉隠武士道の書物は、物騒な思想どころか、時代を超えて私たちの生き方を照らしてくれる知恵の宝庫です。詳しい成立の経緯はWikipedia「葉隠」でも紹介されています。
現代の私たちは、身近な人の死に立ち会う機会がどんどん減っています。だからこそ、死を自分とは関係のない遠いものとして扱いがちです。
もし今日が最後の日だったら――家族への接し方も、仕事への向き合い方も、友人への一言も、きっといつもと同じようにはいかないはずです。この問いを胸に、葉隠武士道という一冊を紐解いていきましょう。
3度、世の中から消された葉隠武士道「禁断の書」
『葉隠』は今から約300年前、佐賀藩士・山本常朝が語ったことを、後輩の田代陣基が7年かけて書き留めたものです。
この本には、3度の危機がありました。
1度目は、著者である常朝自身による封印です。「これを読んだら燃やせ」と命じるほど、内容がデリケートで誤解や悪用を恐れていました。実際、佐賀藩内でも禁書のように扱われ、一般に広く読まれることはありませんでした。
2度目は、江戸の泰平による忘却です。戦のない時代が続くにつれ、武士としての心構えは少しずつ人々の記憶から薄れていきました。
ところが幕末、黒船来航という国難に直面したとき、西郷隆盛や大久保利通、江藤新平といった維新の志士たちが、この本を熱心に読み返したといわれています。
そして3度目の危機が、戦後に訪れます。GHQによって危険思想と判断され、7000冊以上が回収・焼却されました。それでも『葉隠』は生き残りました。時代を超えて人の心を動かす、本物の言葉が詰まっていたからだと言えるでしょう。
三島由紀夫が生涯愛した一冊
戦後、この本を再び世に広めたのが作家・三島由紀夫です。生涯のバイブルとしてこの本を愛読し、『葉隠入門』という解説書まで書いています。彼が特に大切にしていたのが、こんな言葉です。
死を毎日、心に留めておくことは、生きることを毎日、心に留めておくことと同じだ。
三島は、現代人が死を遠ざけ、直面することを避けていると指摘しました。だからこそ、死を心に留めることは、裏返せば「生」を強く意識することにつながるのだと。
葉隠武士道「死ぬことと見つけたり」の本当の意味
さて、いよいよあの有名な一節です。これは、命を粗末にしろという意味では決してありません。
『葉隠』にはこう書かれています。「生きるか死ぬか、安全な道か困難な道か、二つの選択肢で迷ったときは、困難な方、勇気のいる方を選びなさい」と。
これは、私たちの毎日にも驚くほど当てはまります。職場で間違っていると感じることに見て見ぬふりをするか、勇気を出して声をあげるか。家庭で本当に言いたいことを飲み込むか、ちゃんと伝えるか。人はつい、怖いから、面倒だから、波風を立てたくないからと楽な方を選んでしまいがちです。でもそれを繰り返すうちに、少しずつ自分が本当に大切にしたかったものから離れていってしまう――『葉隠』は、そう警告しているのです。
毎朝、あらゆる死に方をシミュレーションしてから一日を始めよ
さらに具体的な実践法として、こんな一節もあります。「毎朝、あらゆる死に方をシミュレーションしてから一日を始めなさい」。
縁起でもないと思われるかもしれませんが、これは今日という日が当たり前ではないことを、毎朝自分に言い聞かせるための習慣です。そうすることで、一日一日をより大切に、後悔なく過ごせるようになるのです。
命はつながっている――循環という思想
葉隠武士道の背景には、もう一つ大事な考え方があります。それが「循環」という思想です。
私たちの身体の細胞は日々生まれ変わり、そして死んでいます。地球も同じで、水が蒸発して雲になり、雨になって、また海に還っていく。この大きな巡りを動かしているのが、太陽のエネルギーです。当時の人々は、この循環の根源にある働きを敬い、そこに大いなる感謝を見出していました。
自分の命は、自分一人のものではない
自分の命は、自分一人のものではない――『葉隠』が伝えたいのは、まさにこのことです。
ご両親がいて、そのまたご両親がいて。たくさんのご先祖さまのつながりの中で、今のあなたが存在しています。そして、あなたが今日誰かにかけた優しい言葉や、育てているお子さんへの愛情も、次の世代へとつながっていく循環の一部なのです。
だから『葉隠』は、自分の命をどう使うかを真剣に考えることに、大きな価値を置いています。それは自己犠牲ではなく、大きなつながりの中で自分の役割を精一杯果たすという、とても前向きな考え方なのです。
思いやりを持って、人のために動く
ここからは、私たちの日常にそのまま活かせる葉隠武士道の教えをご紹介します。
謙虚に学び続けること。 「自分はもう十分に経験を積んだ、完成した」と思った瞬間から、人はダメになっていく――子育てでも仕事でも夫婦関係でも、当てはまる教えです。
地味な役割にこそ、本当の価値が表れる。 調子がいいときは誰でも張り切れます。でも、家事や育児、職場の裏方の仕事など、誰でもできると思われがちなことほど、丁寧に向き合う姿勢が周りからの信頼につながります。
第三者の意見を聞くこと。 大事な決めごとを身内や当事者だけで話すと、自分に都合のいい判断をしてしまいがちです。利害関係のない第三者の声が、バイアスのない判断につながります。
見返りを求めず、人のために動くこと。 『葉隠』が最後に説くのは、太陽のように与える存在であれ、ということ。周りの人のために自分の力を使う姿勢は、時代を超えて大切にされてきた価値観です。
おわりに―葉隠武士道が教えてくれること
今日、あなたに問いたいこと
葉隠武士道はもともと、武士に向けて語られた教えです。けれど、そこに書かれている「今日という日を大切に生きること」「楽な方ではなく正しいと思う方を選ぶこと」「自分の命は自分一人のものではないと知ること」「謙虚に学び続けること」「見返りを求めず人のために動くこと」――これらはすべて、時代が変わっても、性別や年齢を問わず、私たちの人生にそのまま活かせる知恵だと思うのです。
もし今日のお話で、何か心に引っかかることがあったら、ぜひ今夜、寝る前に少しだけ考えてみてください。
もし今日が人生最後の一日だったとしたら、私は今日という日を、どう過ごしただろうか。
その小さな問いかけの積み重ねが、明日からのあなたの毎日を、少しずつ変えていくかもしれません。
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